2020年4月5日に放送された『見つけよう!あなただけのオルセー美術館』の自分用メモです。
8Kにより撮影された美術品たち。高精細映像のためクローズアップしてもしても画面が綺麗なんだそうで。絵の具の盛り上がりまで見えて臨場感たっぷりなんだそうです。
実際に見られないなら、せめて映像で体験したいものだなぁと思いながら見ていました。
ゲスト
西洋美術が専門の高階秀爾氏
俳優の小林聡美さん
8Kのオルセー美術館の番組『オルセー美術館Ⅱ 月の肌触り』に声の出演をされているんだそうです。
映画監督の細田守さん
細田さんはオルセー美術館が大好きで、学生時代の自分に絵の魅力ってなんだろう?というのを一番教えてくれたのがオルセー美術館が所蔵している諸作品であり、絵だけではなく建物も好きだと仰ってました。
「あまりにも好きなんで自分の映画に出したぐらいなんですけども」
それが『未来のミライ』という作品だそうです。
架空の東京駅のモデルにするため、オルセー美術館を取材されたんだとか。
紹介された作品
ルノワール『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会』
印象派といえば、この作品。モンマルトルで大人気だったダンスホールで過ごすパリっ子たちの休日を描いている。
高階氏「この何となく光がポロポロとこぼれてる感じが非常によく出てる絵ではありますね。木漏れ日の表現が。これ見せ場ですけどね」
細田氏「高階先生が仰るように光がやっぱすごく美しいと思うんですけど、それが何かざわめきを伝えてるような、それがそのまま、ここにいる人たちっていうのはすごい楽しい思いをしてるんだろうなっていうことがほんとにその木漏れ日から伝わってくるのが、すごいその表現の手段と、こう何か伝わってくるものがすごく一致しててすばらしいなあと思いますね」
小林氏「軽やかで楽しそうですよね。みんな若いし。何かちょっと何人かと視線が合うのがすごく面白いですよね。こちらのダンスしてる2人組(画面左側の2人)、あとこちらの真ん中で踊ってる女性と。あとこの木の間からこうのぞいている女性とも目が合うし。何か時々人と目が合うのがハッとしてワクワクする」
マネ『草上(そうじょう)の昼食』
1990年に放送されたNHKスペシャル『印象派の殿堂 オルセー美術館』。
その案内役として当時、東京大学教授だった高階氏の姿が。
この絵が発表された当時、大変にスキャンダルになった理由を「大きく言って2つ理由があると思うんですが、やっぱり一番大きな理由は森の中でこの裸の女の人がいるというのはまあ風紀上ですねよろしくないという非難でしょうね。一緒にいる男の人は明らかに当時の服装をしてるわけですね。そちらはきちんとネクタイまで締めて服を着ているのに女の人は裸だと。実際にそういうことがあったんじゃないかというふうに誤解されてですね。絵の世界ではなくて現実との混同があったと言っていいと思いますね」
30年前の自分の解説を見た感想を求められ「大変いい解説」という高階氏のコメントに大笑いする皆さん。
「付け加えるとすれば、今『草上の昼食』とまあ普通呼んでますけれども最初は『ピクニック』って言ってたんですよね。要するにみんな楽しんで、そこにいろいろ食べ物や何か散らばって、そこで森の中に行って少し食べたりおしゃべりしようっていう、そういう風俗的な主題なんですね。それを裸婦と着衣像に合わせた。これ非常に革命的なことだと思います今の絵。それでまあ文句を言われたっていうことですよね」
なぜ女性だけ裸なのか?奥にいる水浴びをしている女性との距離感も不思議な感じだ、という声も。
小林氏「この左の下にカエルがいるんですよ。何か、こういったところにも遊び心があって」
細田氏「これだけの少ない筆致でカエルの存在感がすごく出てるっていうのが」
マネ『オランピア』
高階氏「展覧会にいっぱいあったわけですよヴィーナスとか女神とか。だから女神だって言ってればよかったのがオランピアだっていうのは、ちょっと娼婦の源氏名みたいな名前を付けてるんで、みんな怒ったわけですよね。けしからんと」
高階氏「陰影はなくて胸や何か、これ洗濯板みたいだなんて言われたぐらい。(ここで、え〜これで選択いたですか〜?!という小林氏)なかなか僕はいいと思うんですけど。そう言われたんですよね」
そして、あまり見えてなかったがモデルの女性の髪の毛が長いことが判明。(私はショートカットの女性だとばかり思ってましたが、束ねた髪を女性の左肩の方へ流しているのでした)
細田氏「筆致がすごく細かい部分と、そうでない部分の差がすごいあるじゃないですか。例えばこの(左)手が何か割と古典的な感じの描写がありながら、髪についている花っていうのはざっくり描いてるとか。多分髪の毛もざっくり系だと思うんで。要するにフォーカスがそれぞれ違うっていうかね、何かそういうところがあるんだと思いますけどね」
細田氏「オランピアいつも見に行くんですけども、この絵1枚がやってのけてるっていうふうなことが歴史上すごいなと思うんですよね。つまり、その、もちろん日常的にこういう風景っていうのは当時あったと思うんですけど、それを絵にして人の目に触れることでどういうふうに人の意識が変わっていくか。そうやって変わっていったところの積み重ね上に、僕らの今のね、その美意識っていうのもあるとすれば、この絵がもたらしてくれたことってのはすごく今の僕らにとって大きいんじゃないかと思うんで。すごくこう、ありがたい気持ちっていうかなぁ」
細田氏「つまり顔料をこの油で溶いたものを描いただけで人の意識が変わっていく、世界の美意識が変わるっていう。絵画ってのは本当にすごいなっていうふうに思う、っていう意味においてですねこの絵はすげえな、といつもオルセー行く度に」
ドガ『ダンス教室』
手前に立っている女の子の足元には猫…いや、犬??
手前左側の女の子は、レッスンに飽きたのか背中をポリポリかいてるし。純白のチュチュはお揃いながら、リボンの色はみんな違ったり、耳元のイヤリングも描き込まれており作者ドガの細やかなまなざし。
モロー『ガラテイア』
神話をもとに描かれた作品。ガラテイアは海の女神。
不穏な空気は女神の青白く光る肌のせいか、三つ目男のせいか。
それだけではなく、女神の足にまとわりつく海の生き物たち。更に、この世ならざるもの。
細部を見てから、改めて全体を見ると新しい絵の魅力に気づくかも。
長井ディレクターが語る8K撮影現場
実際にオルセー美術館で撮影をした長井ディレクター。
基本は夜中の12時から朝方まで撮影をしていた。人気のない館内はふだん感じられないような気配、貴重な体験をした。
撮影は一晩で2点ぐらいしかできない状態で、必然的に1点を見てる時間が大変長かった。今まで見ていたつもりで気づかなかったようなことも気づくことができた。
スーラ『サーカス』
長井ディレクター「(細かい)点描もとってももちろん驚いたんですけど、それ以外に画家の細部に対するこだわりみたいなものを見つけてしまったんですね」
それが、この規則正しく引かれたグリッド線。
高階氏「今のグリッドは要するに下絵でみんなやってることですよね。ほんとは最終的には見せないっていうのは構図を考えなきゃいけないんです」
細田氏「多分これは残っちゃったっていう線だと思うんですけどね。一種のまあ塗り残しというか何ていうか。でももちろんこれは見せようと思って残してあるものじゃないので。そういう意味ではスーラは、これアップにするのはどうかと思ってると思いますけどね」
ふふふ。
高階氏「面白いあれですよね歴史的に見れば。美術の我々が見るときにね、スーラもそういう人だったんだということで見える部分だけではないものが実はあって、それが実際作品を生かしてるわけですからね」
ミレー『春』
高階氏「ミレーの場合には『種まく人』とか働く人が出るわけです、農民が。『落ち穂拾い』もそうですよね。でもそうではなくて、むしろ地面っていう畑とかそれを主題にしてるっていう割に珍しい、いい絵だと思います」
よく見ると、樹の下には雨宿りをしているような人物の姿。
長井ディレクター「道のところで何かうっすら水色が道の茶色いところにあるなと思って。これはなんだろうなと思ったら水たまり(通り雨が来た時にできたもの)だと思って、そこまで細かく書いているっていうところをちょっと見つけてびっくりしたんですよね」
細田氏「これ水たまりが空を反射して映してるんですね。で、要するにこの絵の奥は曇ってるんですけども、要はそのフレームに映ってない部分っていうのは青空が見えてるっていうことをこの反射で。右手にも青空がちょっと映ってますけどね。虹の反対側ですからね」
小林氏「すごく光が魅力的な絵ですね。何かこう春のみずみずしさとか、あと生命のきらめく感じとかがすごくこうあふれ出てくるような。(雨宿りしている人物は)何かうつむいてるけど暗い感じには私には見えなくて。自然に対して祈っているような」
高階氏「ミレーの絵で長井さんが目をつけたっていうのは、非常にこれ日本的な感じだと思います。ルーブルの館長が言ってました。ミレーはヨーロッパで、フランスでクローズアップされたのは日本人のおかげだって。日本人が見たがるのは3つだと。『ミロのヴィーナス』、それから『モナ・リザ』と『落ち穂拾い』。で、向こうの人はね、まあ前の2つはいいけど何で『落ち穂拾い』?って言うんで。それは逆にいうと、こういうものに対する日本人の感覚って非常に敏感なんですよ、逆に」
長井ディレクター「随分撮影が長引いたから日本が恋しくなってしまったかもしれない」と笑ってました。
カイユボット『床削り』
高階氏「土足でいろいろ入ってきてるから床が汚れたのを全部洗うよりも削っていくわけですよね。労働者は大変な労働だと思いますけど」
長井ディレクター「削りカスをカイユボットは描いていて。光の透け具合を描き分けることによって、右が薄くて左がこの削りカスが厚いんだっていう、この細かいとこまでもカイユボットは描いてたんだと思って。これになかなか衝撃を受けました」
小林氏は、真ん中が親方で仕上げ担当。向かって右が親方の息子で、画面の左側にいるのは親方の弟、って妄想して見てたそうです。
オルセー美術館の建築について
1900年ごろに撮影された写真。
出典 : Wikipedia
かつてオルセー美術館は駅だった。美術館になったのは(2020年の時点では)今から34年前。
天窓から降り注ぐ太陽の光。オルセーは光あふれる美術館。
やわらかく光を受ける壁のレリーフ。この装飾の模様は太陽の光を象徴しているのだとか。
ガラスと鉄骨の開放的な空間に絵画は不思議となじんでいる。
長井ディレクターが一番のオススメの場所。それは大きな窓に面して展示されているエミール・ガレの手の形をした作品。
エミール・ガレ『貝殻と海藻のある手』
(ちがうテレビ番組でも紹介されてたことがあるようです)
長井ディレクターによると、ガラス作品のため1日のいろんな時間の光によって表情が変わるんだとか。確かに昼の光、夕暮れの映像が出ましたがとても素敵でした。
山口ディレクターが語る8K撮影現場
ゴッホ『星降る夜』
山口ディレクターが感動した『星降る夜』。
山口ディレクター「気付いたのは質感というか筆跡(ふであと)っていうのがやっぱり近くで8Kで見ると凹凸がすごいなと。空が特に青がその筆が一筆一筆(ひとふでひとふで)もうまさにゴッホが描いた、何か筆が速かったのかな遅かったのかな、そのスピードまでちょっと感じられるような」
細田氏「もう絵の具も置いてあるみたいな感じですよね」
山口ディレクター「何か網目のカゴのように。高階先生、これもすごく速いんですかね筆。ゴッホの描き方の」
高階氏「これは非常に速いけども、でもこれ全体から見るとやっぱりかなり時間をかけてますよね。これやっぱりかなり丁寧に描いてますよ」
細田氏「何かちょっとこうスケッチしたような素早さみたいなものも感じるけど、やっぱ結構時間かかってるんですね」
高階氏「だと思いますね」
細田氏「「マストとこの水の反射を描き分ける感じ。この絵具の盛り上がり感すごいですね」
高階氏「空の星も真ん中は盛り上がってるけど細い線で光がありましたよね。これ気が付かなかった」
細田氏「もうゴッホの筆致っていうのは一個一個がもう何ていうかその…心が描かせてるような、ただこう描いてるだけじゃないもっと違う意味をそこに見ちゃうような画家ですものね。ですからやはり、う〜ん、いろんなふうに見えてきますよね」
小林氏「女性の顔があるのに男性の顔がないのは…」
細田氏「この2人は何なんですかね。この2人はずっと…」
小林氏「腕組んでますよね」
高階氏「二人連れってよく描きますよね彼。欲しいんですよ彼は。一人ではいられない人だから」
細田氏「1人は描かない必ず2人っていう」「この星明りの中でこの2人は何を思ってここでどこへ行こうとしてるのか」
(たしかに、この2人組はもう夜景を見終わったのかこちら側に歩いてこようとしてますものね)
ヴュイヤール『ベッドにて』
山口ディレクター「塗り絵みたいにペタンとしてて、すごくさっき(ゴッホ)のように激しいタッチではなくてすごく静かなんですけど塗りがこう重ねられてるのが感じられて」
細田氏「しかしながらこういう塗り残し(シーツの部分)を、まあ意図的に、この主線みたいなものを残すのにまあその周りの部分が塗り残しになったっていうのがまた一つの表現になってますよね」
小林氏「これが1色ではなくていろんな色が合わさって深みが出てるんですね」
高階氏「非常に安心して眠っている人ですよね。眠ってて全然…。顔は全くそれこそ肉づきがないけどベチャッとしちゃって」
小林氏「寝具の質感とかがねペロっとしてるけど、すごくホッとする」
山口ディレクター「何かフワっとしてるっていうか枕とか布団がフワフワしてる感じが…」
高階氏「あれが枕からあっちからず〜っと曲線でうまく作ってますよね」
小林氏「髪の毛のさりげなくはねているところもかわいらしい」
細田氏「この目がこう三日月みたいなふうに描くのもとっても…何ていうか一種こう…」
小林氏「アニメ的」
細田氏「そうそうアニメ的っていうか現代的ですらあるというか。これでも1900年の前の作品でしょ(1891年の作品のようです)それが、えっ!って思っちゃいますよね、このモダンな感じっていうか」
多くの作品の中で、この作品に惹きつけられたのは夜中の撮影で眠たかったからではないか?と司会の人に言われ「(それは)ありました」と言って笑いを誘う山口ディレクター。
細田氏「気持ちよさそうですもんね」
山口ディレクターおすすめの場所
山口ディレクター「オルセーは駅だったので時計がいくつもあるんですね。こちらの金の時計も歴史を感じさせてくれていいんですが」
「僕は美術館の5階にあるガラス張りの大時計がオススメです」
窓越しに見える建物、右はルノワールたちもいたモンマルトルのサクレクール寺院。左には緑の屋根のオペラ座。
(時間をコマ送りして一日の変化を見せてくれましたが、なんとその美しいこと!)
絵画の色を堪能する
セザンヌ『リンゴとオレンジ』
見たものを単純な形にしてキャンバスの上に並べたセザンヌ。まんまるなリンゴやオレンジ。その単純化した形ばかりが美術書で語られるが、色に注目しても面白い。
例えばテーブルクロス。離れて見ると白いが、近づいてみると白だけではない不思議な色が使われている。
ゴーガン『アレアレア』
南国タヒチで描かれた『アレアレア』
高階氏「カラフルだけど点描とか印象派的じゃなくて平面的なカラーの構成ですよね。背景から地面から手前から。非常に強い」
小林氏「赤い土の上にはちょっと紫っぽい色を置いたりなかなか斬新ですよね。実際にね赤かったのか、ゴーガンに赤く見えたのか」
高階氏「チラっと赤かったのを強調してるんでしょうね。ヨーロッパやパリなんかに比べれば原色の世界でしょうね」
細田氏「この犬もちょっと赤い。そんなのねヨーロッパにいないんじゃないかみたいな」
高階氏「エキゾチシズムっていうよりも、そっちがほんとの世界だと思ったんでしょうね」