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日曜美術館『開館!アジア最大のアートスポット 香港 M+美術館』

2022年3月に放送された日曜美術館『開館!アジア最大のアートスポット 香港 M+美術館』のメモです。

M+美術館とは?

香港に2021年11月12日オープンしたアジア最大級のアートスポット。

部屋いっぱいの土の人形

香港の風物詩とも言えるネオンサインも展示されている。

 

2022年3月現在は、新型コロナウイルスの影響で閉館中。

M+とはミュージアム +。従来の美術館を超えるプラスとは一体何なのか?を探っていく。

ゲスト

森美術館館長の片岡真実さん。

「コレクション事態は10年前ぐらいから始まってるんですけれども、今か今かとアート界の人たちが待っていて本来であればこの3月にアート・バーゼル香港っていうアジア地区最大のアートフェアがありますから、それに合わせてみんな行こうと思っていたところだったんですよね」

案内人

M+のデザインと建築のチームのリードキュレーター・横山いくこさん。

香港をずっと取材してきたNHKの若槻香港支局長。

メインエントランス

日本のインタラクティブデザイナー・中村勇吾さんの「ドナーウォール(2021)」という作品がデジタルサイネージに仕立てられ展示されている。

デジタルサイネージとは、こちらのホームページに説明があります。

ビジターサービスにはオレンジのTシャツを着たスタッフさんたち。ここでマップとガイドをもらえる。

建物について

東西北の3つの出入り口から自由に出入りできる。そのコンセプトは”開かれたミュージアム”。

設計を手掛けたのはスイスの建築家ユニットのヘルツォーク&ド・ムーロン。スイス出身の2人による建築ユニットで、2001年プリツカー賞、2007年世界文化賞建築部門を受賞。

ミュージアムのコンセプト作りからキュレーターと共に手がけるという斬新で国際的な建築コンペティションで選ばれた。

ラーニングハブ(1階)

外から見ても印象的な三角屋根は、1階に設けられたラーニングハブ。教育のためのスペースが館内で一番眺めがいい場所になっている。

専門のチームがワークショップや講演会をプログラムする。

ファウンドスペース(地下2階)

建物を特徴づけるのが”発掘された場所”という名のダイナミックな地下空間。

真下を通る地下鉄のトンネルが掘り出されたかのように、むき出しになっている。

ここにはヘギュ ヤンという韓国人のアーティストの作品「ソニックレスキューロープ(2021)」。

韓国の子供の童話からヒントを受けた作品で、ロープに沢山の鈴が付けられている。音の反響を生かしたり、天国へつながっていたり、平和の祈りのようなものが表れている作品とのこと。

開館当初、鈴を鳴らす人が多すぎたため現在はトレーニングされた作品の係員が定期的に鳴らしているんだそうです。

ここの空間の高さと奥行きを生かした作品を今後も展示する予定。

 

上のTweetをみると、たしかにかなり大きな展示ができそうですね。

ランプシェード

入口に並ぶランプシェード。これは市場の照明器具と同じタイプのもの。

ネオンサイン

伝統的なネオンの職人は少なくなってしまったんだとか。そこでM+では、消えゆくネオンサインをコレクション。

またネオンを修復する様子が見えるようにしている。

メインホールギャラリー

1960年代から現在までの香港の視覚文化

美術以外にもビデオやビデオゲーム、広告、建築、グラフィックなどがいろいろ集まっている展覧会が開かれている。

King of Kowloon(キング オブ カオルーン)

香港で2000年代の後半に亡くなるまで香港の街なか、特に九龍をキャンバスに自分の文字をいろんなところに書き続けた人。

その人が扉に描いた「無題(2003)」會灶財(又名「九龍皇帝)」。

自分は九龍の王様で、それを受け継いだ者であるという家系図のようなものが書かれている。それは彼の空想であり事実ではないが、街なかにメッセージとして描き続けていた。

勝手にあちこちに書いていたので、警察の人や清掃の人とやりとりの末、書いては消され書いては消され、だったそうで。

洗剤のCMにも出演し、自分で書いたものを消されるという内容だったと。

「いわゆる芸術というものが理論的とか歴史的な評価の枠を超えて、そういうエスタブリッシュされた美術があると同時に、起こっている表現活動みたいなもののつながりだとか、そういうものから生まれる街なかとか、人々の共感みたいなものを含めて私たちは収蔵しようとしているので、これはそういう意味ですごく象徴的な作品になってます」

アパートを再現

ゲイリー・チャンという建築家が住んでいるアパートを原寸大で再現したものもある。

「ドメスティック・トランスフォーマー(再現作品)」張智強

テレビがはめこまれた壁、と思いきや、その壁を動かすとその後ろからキッチンが見えてくる。

テレビの裏側にはキッチンカウンターが折りたたまれていたり、物が置ける棚があったりする。

狭いワンルームに24種類の機能をもたせ、一見すっきりしているが、色々と壁を動かすことで必要なものを取り出せるようになっている。

こちらに動画がありました)

模型やビデオでは感じられないスケール感を、実際の大きさで体感することで美術作品やデザインを超えて身近に感じて欲しいという意図があるようです。

イーストギャラリー(2階)

東西南北に4つのギャラリーがあり、部屋の数は全部で31。

イーストギャラリーにはアジアを中心としたデザイン・建築の展示。

横山さん曰く、日本のデザインはライフスタイル・チェンジャーの役割を担っているという。

「ミゼット(1962)」ダイハツ

1960年代前半、海外へも輸出された日本の三輪自動車。

日本ではあまり長くは活躍しなかったが、東南アジアなど道路整備が出来ていない箇所では小回りもきくし、すごく重宝された。

東芝から1955年に出された世界初の全自動炊飯器。

そして1960年代から東芝の技術提供を受けてダートンという台湾の炊飯器が作られた。

製品により生活が変わっていくスピードや使い方が国によって違っている。台湾では炊飯器で蒸し物をしたり、日本とはまた違った使い方をしている。

寿司店

1988年に東京・新橋に開店した”きよ友”。

2014年にM+が購入し、2021年に移築された。倉俣史朗がデザインした店内は、お寿司屋さんとは思えないモダンな空間。

カウンターの後ろは壁ではなくキャビネットになっており、食器などが収納されている。食器などは倉俣氏のデザインではなく、お寿司屋さんの大将が選んだものが置かれている。

今まで倉俣氏の本が出版されても、空間の写真はあってもこのように物が収納されたところは見えていなかった。

 

その他にも、”たまごっち”や”写ルンです”なども収蔵されている。残念ながら”写ルンです”の自販機は購入できなかったので、情報をお持ちの方は連絡が欲しいと仰ってました。

 

絵文字(1998)

栗田穰崇氏の絵文字スケッチも収蔵されている。栗田氏は絵文字という概念を発明。

栗田氏が多忙のため、建築家の青木淳氏が12×12のグリッドの中でどう表現するかをデザインした。

絵文字は日本のオリジナルでありながら、世界で使われるようになったのはiPhoneのOS8のアップデートのときに初めてデフォルトでキーボードに入ったのがきっかけ。

シグ ギャラリー(2階)

M+コレクションの中核をなす作品群が展示されていて、中国大使も務めたスイス人のウリ・シグさんが収集したもの。1970年代に始まる中国現代美術の40年の歴史をたどることができる。

M+シグ・シニア・キュレーター兼学芸課長の皮力氏登場。

ジャンウェイ(張偉)によって描かれた「Fusuijing Building」(1975)、「Red Stop Sign」(1974)という小さな作品。

 

当時は、ちゃんと芸術を学んだわけではない独学の人が多く、当時アーティストがこのような景観を描くことがタブーだったため、誰にも見つからないように小さく描いている。見つかったら逃げなくてはいけないので。

同じ時期に盛んに描かれていたのは文化大革命を称賛するプロパガンダ。

「Divert Water from the Milky Way Down」(1974)孫國岐 張洪贊

皮力氏「申し上げたいのはこの作品が典型的な文化大革命のプロパガンダ作品ということです。社会主義のリアリズムと言われています。このような厳しい環境の中で、どうして笑顔でキラキラとしていられると思いますか?

現実ではないんですね。理想主義といいましょうか。これがプロパガンダなんです。中国芸術の、いわゆるメインストリーム「公式の芸術」ですね。

主流派のプロパガンダ作品とは対照的に、若い人が一生懸命本当の感情を表そうとしているんです。不安がある。悲しい。センチメンタルだ。そういう気持ちを表してるんです。

こうやって本当の感情を表すこと自体が公式のプロパガンダじゃないということです。近代の、もしくは現代芸術の始まりと言える作品なんです」

M+における「モナリザ」候補の一つ

次は1990年代の芸術作品。

「Bloodine Big Family No.17」(1998)張曉剛

皮力氏「ジャン・シャオガンは、こういった家族の肖像をたくさん描いてるんですが、多くの中国の人達にはたくさんの悲惨な記憶がありました。20世紀においてです。

でもカメラを前にすると、どれだけ悲惨な過去があったとしても気持ちを隠すんですね。感情が外側にあふれないようにする。

彼はこう感じたんです。

自分たちの悲しい過去を隠すことが中国人のアイデンティティーだと。

1990年代というのは、ものすごい速度で商業化が進み人と人との関係が大きく変わってしまいました。そこでアーティストは考えました。人と人とのつながりは何なのか。

顔の脇に赤い線が見えます。赤い線で人々がつながっています。”ブラッドライン”、血のつながりです。

多くの人からM+にとっても「モナリザ」は?と聞かれますけれども、少なくともこれはM+の「モナリザ」の候補になれる作品の一つだと私は考えています」

シグコレクションをめぐる論争

「Whitewash」(1995−2000)艾未未

アイウェイウェイは中国政府による言論規制を批判し、当局に拘束されたこともあるアーティスト。

この作品は彼の社会的影響力が大きくなるずっと前、自らのアイデンティティーを模索していた時期のもの。

皮力氏「土器のつぼを彼はアンティークのマーケットで集めました。そしてそれを産業用の白いペンキにつけたんです。もともとの模様が残っているものもあれば、完全に白くなったものもあります。

作品についての解説はいくつかあります。伝統的な文化とグローバル化、産業文化との対立です。つまり白いペンキによって伝統的な手仕事を全く分からなくしています。

この作品は既にペンキが落ちているものもありますね。彼はそのままにしたいと言いました。その考えには白い色というのは永久に残るものではないんだと。

もともとの柄を永遠に隠せるものではないということも示したいんだそうです」

 

シグコレクションには社会に対しての批判や、政府に対しての批判的なメッセージを作品に込めているアーティストの作品が収められている。

香港では2020年6月に、香港国家安全維持法という反政府的な動きを取り締まる法律が施行された。

この美術館で政府に批判的なメッセージが込められたアーティストの作品を展示するのは法律違反に当たるのではないかという指摘が起きた。

まさに指摘されたその作品は展示されてはいないが、アイウェイウェイ氏の作品が展示されるかどうかはオープン前に非常に注目されていた。

香港の言論の自由、表現の自由がどこまで守られるのか?ということが、香港市民のなかで大きく注目されていた。指摘された作品ではないが、アイウェイウェイ氏の作品が展示されているということがすごく大きな意味を持つのではないか?

 

 

森美術館館長の片岡氏「このコレクションを通して70年代から中国がいかに社会的にも政治的にも変わってきたのかっていうこと、経済的にもそうですけども変化してきたその大きなうねりをですね作品を通して一般の人が学ぶことができるという意味では非常に重要な展示になっているなと思いましたし

その中では直接的でなかったとしても、政治性を持った作品もいくつかは含まれているとは思うんですけれども、その境界線がどこにあるのかというのを恐らくアイウェイウェイに限らずですね今後M+としても模索をしていくんだろうなというふうに思っていますが、そうしたことは今世界中で起こっていることなので美術館、21世紀の美術館の新しいチャレンジとして共有していく課題になるだろうなと思っています」

ウエストギャラリー(2階)

担持室にぎっしりと並ぶ8万体の土のフィギュア。

イギリス人アーティスト アントニー・ゴームリーによるインスタレーション。

「アジアン フィールド」(2003)

ゴームリーは2003年に中国を訪れ、現地の300人と土の人形を作った。

指示したのは3点だけ。

1.手のひらサイズであること

2.自立すること

3.目が2つあること

出来上がった20万体以上は一つ一つ全て顔が違う群衆のような人形たち。

激動の時代をあなたたちはどう生きるか?と問いかけているかのようだ。

(画像を見ると、広い床を埋め尽くす土人形。その物量に圧倒されました。これ実際に見たら、どんな感じがするんでしょうねぇ。そして、ここに展示されるまでにどこで、どうやって保存されていたのかが気になってしまうのでした)

 

M+では人形を作った人物のポートレートと、その作品を一緒に展示している。人形と同じように、こちらを見つめる人々の表情を見ていると一人ひとりの個性がどのように作品に反映されているかを想像することができる。

ギャラリーの壁には、作品を見た人が気持ちを描いて展示できるようになっている。アーティストだけが特別なのではないという新しい美術の姿。

皮力氏「美術館というのは幸せな気持ちになるだけではなく何かを考えたり過去を振り返る場所でもあります。それは大きな変化だと思います。人々は美術館に来て美しいものを見ることもあるでしょう。

でも考えなければならないことも、現実を見つめなければならないこともあります。私はM+がそのようなコミュニケーションの場になってほしいと思っています」

屋上庭園(3階)

美術館に入らなくても自由に出入りできる公園になっている。

建物の一部に5000個のLEDが埋め込まれており、毎夕6時になるとM+からのメッセージや、作品をモンタージュしたアニメーションなどが流れる。

美術館としては、このモニターは広告塔ではなくギャラリーの一つ。

そして、世界中どこからでも参加できるものが。

夜7時になると、ファサード自体が全部”生けす”となり、自分のアバターである魚がファサードに映り動くのを確認できるとのこと。

オランダベースのスタジオモニカというデザイン事務所で作ってもらったとのこと。

全部完成するのに3〜4時間触っていなければならないが(!?)、最後の終わり方がすごい哲学的で面白い、とのこと。ちょっと試してみたいような?

+とは何だったのか?

森美術館館長の片岡氏「美術だけではなくてデザイン、建築、そしてあらゆるビジュアルカルチャー。それから作品だけではなくてアーカイブも5万点ぐらいあったりとか、これからの美術館がどうあるべきなのかっていうことを改めてそのプラスの中に込めて考えさせてくれるなと思いました」

司会の小野氏「美術館というのはただ絵を見る、美術作品に触れるだけ、それを享受するだけの場ではなくて研究や、他者との交流や市民の憩いの場にもなるという、ある種、美術の余白の広がりをプラスとして表現してるっていうこともあるし、やっぱり他(た)の地域それからこの市民、それから他の国々の人々をつなぐプラスって、こう加算というか、つなぐ記号じゃないですか足すっていうのは、増やしていく。

だから、そういう人と人をつなげていくそのプラスっていう、その記号というのがこの美術館のプラスなのかなっていうふうにもちょっと思いました」

 

横山氏「一番の目的は、ここが今これから皆さんの道具箱として美術館があるんだっていうことを、どういうふうに分かってもらって、使ってもらえるようになってくというところがやっぱり一番重要で、お買い物に来るのでも、ただ単にのんびりするのでもかまわないんですけど、道具箱としてどういうふうに発展させていけるかというとこが、これからの私たちの活動だと思います」

 

ちょこっと感想

現代芸術よく分からないから、別にこれ見なくてもいいかなぁ、なんて失礼なことを思いながら見始めましたが。

なんのなんの、美術館というのはただ作品を展示するだけではなく、昔の時代から今をつなぐものでもあり、展示する作品で今という時代すら反映している場所にもなるのだと、目からウロコが落ちました。

もちろん、いろんな美術館の形があっていいんだろうとも思いますし。

私自身は、のんびり楽しみたいという気持ちで美術館へ行くことが多いので何かを考えるために行く、コミュニケーションをする、という美術館の利用方法があることに驚きました。

今後、M+でどんな作品が展示されるのか?が自由の尺度にもなるのかと思うとどうか幅広いものが展示される場所でありますようにという思いと他人事ではないんだという、チリっと心が痛む回でした。