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アート・ステージ『絵画で廃墟めぐり』

※ 記事内に商品プロモーションを含んでいます

まだまだ続くと思っていたアート・ステージ〜画家たちの美の共演〜が終わってしまって残念です。

2019年1月19日に放送された『絵画で廃墟めぐり』の回を自分用にメモ。

公式ホームページ

廃墟画の第一人者ユベール・ロベール

 

『廃墟の風景と人物』シャルル・コルネリス・ド・ホーホ

シャルル・コルネリス・ド・ホーホ『廃墟の風景と人物』 東京富士美術館蔵

崩れ落ちた建築物、かつての栄華と現在の退廃。廃墟のある風景は見る者を悠久の時の流れに誘う。

ユベール・ロベール『ローマのパンテオンのある建築的奇想画』ヤマザキマザック美術館蔵

華麗なロココ美術が花開いたヨーロッパの18世紀。その優雅な時代、不思議なことに廃墟を描いた作品がもてはやされた。廃墟のある風景画は”廃墟画”という一ジャンルになったほど。

廃墟が絵画のテーマとして人気を博した18世紀。中でもフランスの画家ユベール・ロベールは、その第一人者として知られている。

ユベール・ロベール

ユベール・ロベール(1733〜1808)

彼の代表作が『廃墟となったルーヴルのグランド・ギャラリー想像図』

ユベール・ロベール

荒れ果てたルーヴル美術館を描いた一枚。時の流れに崩れ落ちた建物、空間にリズムを与える円柱がかつての荘厳な姿を伝える。

明かり取りの窓があった天井からのぞく青空。廃墟画の典型的な作品。この絵が描かれたときのルーヴルは廃墟どころか宮殿から美術館へと生まれ変わる途中だった。

その計画に携わっていたロベールはプロジェクト案を絵画の形で残している。

ユベール・ロベール『展示計画』

『ルーヴルのグランド・ギャラリー展示計画』

美の殿堂にふさわしい荘厳な建築。館内には所狭しと美術品が展示され多くの観客で賑わっている。

電気の照明がない時代、天窓から自然光を取り入れる設計はロベールのアイデア。

廃墟になったルーヴルが描かれたのは、この作品と同時。まだ完成もしていないルーヴルを廃墟として描くことはとても奇妙に思える。しかし、ここにはロベールの芸術感が反映されている。

廃墟の中に配置された彫刻。3人の若者が眺めるのは芸術の女神ミネルヴァ。画面右端に置かれたのはルネサンスの巨匠ミケランジェロの彫刻『瀕死の奴隷』。

この作品は、今でもルーヴルで見ることができる。

画面中央には腕を広げて立つ古代ギリシヤの神アポロン。芸術の神を前にして一人の画家がデッサンをしている。

廃墟に置かれた古典作品とそれを模写する芸術家。それらによって時の流れに左右されない芸術の永続性を高らかに宣言している。

廃墟画がブームになった理由

18世紀にブームになった廃墟画。当時それがもてはやされたのには理由がある。

教科書などでおなじみのイタリア・ポンペイの遺跡。ここはかつてナポリ近郊にある古代ローマの年だった。

しかし紀元後79年8月、ヴェスヴィオ火山の大噴火によって一瞬にして火山灰に埋もれた。

カール・ブリューロフ『ポンペイ最後の日』

カール・ブリューロフ『ポンペイ最後の日』

ジョン・マーティン『ポンペイとヘルクラネウムの壊滅』

ジョン・マーティン『ポンペイとヘルクラネウムの壊滅』

ポンペイ遺跡の発掘が始まったのは1748年のこと。これをきっかけにヨーロッパ中に遺跡ブームが起きた。

ポンペイから発掘された絵画
ポンペイから発掘された絵画

そのブームを後押しするようにドイツの有力な美学者ビンケルマンが古代ギリシャ・ローマ文明こそ高貴なる簡素さと静寂なる偉大さを持つ美の基準であると説いた。

廃墟の持つ崇高な美と絵になる風景を求めて当時の画家たちはこぞって遺跡を訪れた。ロベール自身も、およそ10年間にわたるイタリア留学中に幾度も遺跡を訪れそこで多くを学ぶ。

ロベールに影響を与えた画家

イタリア滞在中のロベールに、ひときわ強い影響を与えた画家がいた。

当時、廃墟をテーマにした幻想的な版画を数多く残し人気を得ていた画家ピラネージ。

ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージ

ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージ(1720〜1778)

彼の代表作『幻想の牢獄』

ピラネージ『幻想の牢獄』

『幻想の牢獄』シリーズより「円形の塔」

画家だけではなく文学者にも強いインスピレーションを与えた作品。

目もくらむような壮大な牢獄。不気味な装置や、どこにつながっているか分からない階段。黒と白という版画ならではの2色を活かして光と影のコントラストを強烈に、そしてドラマティックに描いている。

ここに描かれているのは現実の牢獄ではなく、すべてピラネージの空想の世界。

その想像力のバネになったのは、やはり彼が足繁く通ったローマの遺跡の光景だった。建築家として古代遺跡の研究をしていたピラネージは遺跡の隅々まで熟知していた。彼はそこから幻想世界を生み出した。

ピラネージが描いた『幻想の牢獄』。その世界をイギリスの詩人コールリッジは「熱病で錯乱状態にある時に見た幻覚」に例えた。

 

ピラネージが廃墟そのものを描いた作品もとても強い印象を残す。

ピラネージ『古代アッピア街道とアルデアティーナ街道の交差点』

ピラネージ『古代アッピア街道とアルデアティーナ街道の交差点』

正確な透視図法で描かれたローマの光景。牢獄を描いた作品と同様にめまいを感じさせるような作品。

暗く退廃的な雰囲気で描かれた崩壊する世界。かつてあったであろうローマの姿を緻密な筆記で描いている。

彼が描いた風景はどれも現実には存在しないもの。けれども、その佇まいはあたかも実在するかのように見る者を圧倒する。

ピラネージが描いたローマの風景画は、この町を訪れた旅行者によってヨーロッパ中に広まった。そして当時の人々の古代ローマに対するイメージを大きく変えた。

建築敵ピラネージの構想は実際の建造物としては形にならなかったが彼の果てしない想像力が生み出した幻想の建築は紙の上に実を結び永遠のものとなった。

 

見る者を悠久の時へと誘う廃墟の美。過去と現在、現実と空想が混じり合う、その壮大な風景は不思議な魅力で見るものの心を惹きつけてやまない。

藤ひさし先生登場

番組の美術監修を担当されている藤ひさし先生。

「古い建物や遺跡などは風景画の中に描かれていましたが18世紀になると廃墟をメインとした作品が現れて一ジャンルにもなるほどになりました。オランダのシャルル・コルネリス・ド・ホーホは17世紀の画家ですから、さらにざっと100年前になりますね。その作品も展示されている展覧会が今(2019年1月の話です)開催されていますね。もちろんユベール・ロベールの作品も展示されています」

「西洋絵画に限らず日本の作品も展示されていますよ。現代の日本の作品にまで視野を広げて廃墟の美術史を展開するというとてもユニークな企画ですよね。(廃墟は)西洋ほど興味を持たれたわけではなく流行ったわけではありませんが、実は江戸時代のものにチラホラ登場してるんですねぇ。なんとローマの古代遺跡が描かれています。

江戸時代後期に輸入された銅版画を参考に描いたからなんですね。
阿蘭陀フランスカノ伽藍之図
そんな珍しい作品も展示されていますよ」

渋谷区立松濤美術館【終わりのむこうへ:廃墟の美術史】展