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アートシーン 「今こそ共に見たい作品」

※ 記事内に商品プロモーションを含んでいます

 

 

「今こそ共に見たい作品」をドイツ文学者・中野京子さん、アートディレクターの北川フラムさん、茶人・千宗屋さん、パナソニック汐留美術館・学芸員の方が語っていらっしゃる回が面白かったのでメモ。

ドイツ文学者・中野京子さんのアートシェア

「怖い絵」のシリーズでおなじみの中野京子さんがアートシェアする作品は、『怒(いか)れるメディア』ウジェーヌ・ドラクロワ。

ウジェーヌ・ドラクロワ 『怒れるメディア』

中野さんの言葉

初めてこの絵を見た人は、「誰かに追われて逃げる母親が子どもを守ろうとしている」と感じるでしょう。

でも実は違うのです。

ギリシャ神話に登場するコルキスの王女メディア。侵略者イアソンと恋に落ちたメディアは祖国を捨てイアソンを助けます。

そして2人の子どもを授かりました。

ところがイアソンは別の女性と結婚してしまいます。裏切られたメディア。

イアソンとの間に生まれた我が子を殺そうとする場面です。これは怒りが母性を凌駕する、その瞬間を描いた作品なのです。

コロナ禍でフェイクニュースが流れる今だからこそ、真実を知るためには知識が必要であるということを心にとめておきたい。

 

アートディレクターの北川フラムさんのアートシェア

北川さんは”大地の芸術祭”や”瀬戸内国際芸術祭”など、その土地と密接に関わる芸術祭を手がけてきました。

私がアートシェアするのは越後妻有(つまり)の”大地の芸術祭”で信濃川をテーマにした磯辺行久(いそべゆきひさ)さんのプランに関するドローイングというシリーズですね。

画面で紹介されたのは《天空に浮かぶ信濃川の航跡》のためのプランドローイング。(越後妻有アートトリエンナーレ2003)

環境をテーマに表現してきたアーティスト・磯辺行久さん。”大地の芸術祭”の第1回から越後妻有の地形を作り上げてきた川や水の流れに着目し制作してきました。

これは1万5000年前、現在よりも25メートル高い位置を流れていたという信濃川をテーマにしたドローイング。

500年ごとの水面の高さをラインで示し、現在の風景に至る土地の歴史を目に見える形にしました。

これは今回のコロナっていうのも人類の進展の中で進んできた自然と人間の関係ですね。それが一種、自然の氾濫のような形で出てきた。人間が非常に都市化していく中で自然との関係をちゃんと作ってこなかったことによるものだと私は思いますけども、そういう中で地域あるいは自然っていうものを考えさせてくれる作品だ、という意味で今ふさわしいんではないかと思いました。

 

農村を豊かに再生してきた芸術祭は今後どのようになるのでしょうか?

このアーティストたちと色々話ししていく中で出ていくと思いますが、その場所に行かないで、なおかつ、その場所にふさわしいものを作っていくやり方。そこの場所の人たちと作業ができないけれども、おもしろい作業のしかたっていうのが、ちょっと現実と離れた中でどうやるのかっていうことをみなさん考え出すと思うんですね。

それが芸術祭個々じゃなくて、いろんな芸術祭が連動して、あるいは他の人たちに呼びかけてそういうことをいろんな芸術祭とかのホームページで皆さんが述べる。あるいは、僕とお話をするというふうなことを始めました。

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東京都現代美術館で2020年6月に【ドローイングの可能性】展覧会があり、そのなかで磯辺行久さんの作品展示もあったようですが、残念ながら気づくのが遅かったです。

 

茶人・千宗屋さんのアートシェア

武者小路千家家元後嗣・千宗屋さんが選んだ作品は、今年3月にリニューアルオープンするはずだった京都市・京セラ美術館にあります。しかし新型コロナウイルスの影響で開館できずにいました。

千さんがアートシェアしたのは、現代美術作家・杉本博司(ひろし)の「仏の海」。

京都の蓮華王院三十三間堂に安置されている千体仏。極楽という観念の世界を千手観音であふれる海として再現した作品です。

千さんの言葉です。

静謐な参道を思わせる光学硝子五輪塔の林立を抜け、現世の色を思わせる鮮やかなニュートンの光学論にもとづく「OPTICKS」の色彩写真を経て行き着く漆黒の浄土。

暗闇に浮かぶ三十三間堂の千体千手観音の「仏の海」は、まさに苦悩の現世を抜けて行き着く静かな理想世界であり、それは自身の心のありようのあるべき姿を思わせる。

今コロナ禍にあって人知れずこの世界が誰に見られることなく閉じ込められていることそのものが、すでに示唆的である。

 

小野正嗣さんの言葉

司会を担当されている小野正嗣さんが「アートシェアっていうことを考えるときに、やっぱりそのそれを紹介してくれる人の言葉も大切だなっていうふうに思いました。つまり作品をただ享受するっていうだけじゃなくて、その方たちが何が今大切なのかっていうことを語ってくださってる。そうするとやっぱり作品の理解っていうのもより深まるし、違った面が見えてくるってこともあると思うんですね」

 

パナソニック汐留美術館 学芸員・萩原さんのアートシェア

学芸員の萩原さんがアートシェアする作品はジョルジュ・ルオー『夜の風景 または よきサマリヤ人』。

描かれているのは月に照らされた近代社会の夜の情景。工場の煙突や下町の集合住宅。ルオーは福音書で語られている「よきサマリヤ人(びと)」の主題を描き込んでいます。

道端に倒れていた瀕死の男を手厚く介抱した隣人愛を表しているのです。

この物語は困った人には手を差し伸べようという教えを説いておりますので、苦しい社会の中にも手を差し伸べる希望のようなものをわずかでも描きこんでいるところが私たちも現実の社会というものに目を向けつつ、かつそこにも光があるということが改めて感じとられる作品ではないかと思って、このアートシェアで紹介させていただきました。

 

ジョルジュ・ルオーについて

1871年パリに生まれたルオー。

国立美術学校に入学し、生涯の師であるギュスターヴ・モローに出会いました。モローが関心を寄せた日本美術にルオーも自然と触れることになります。

(画面ではギュスターヴ・モローの「日本の歌舞伎役者」の絵が紹介されていました。)

ルオーが描いた馬に乗る武士の姿。太い線で表現された武士の猛々しさ。素早いタッチで一瞬の動きを捉えています。動きや線の力強さは日本の浮世絵の影響も感じさせます。

 

ルオーの代表的な画題の一つ『ピエロ』。塗っては削る。その繰り返しで表現された、どこかグロテスクな絵肌。人々を笑顔にするために生きるピエロの化粧の下に隠された悲哀や苦労。ルオーは人生そのものを感じさせるピエロの姿に共感を寄せました。

 

ルオーの作品は洋画家・梅原龍三郎によって日本に紹介されました。

西欧の前衛的な絵画を貪欲に吸収していた日本の若き洋画家たちもですねルオーの作品を目にする機会というのが増えていきます。

松本竣介であるとか、それから難波田龍起や三岸好太郎といった画家たちの画風そのものにも影響を与えていきます。

日本近代洋画の発展にルオーの作品、芸術性が果たした役割の重要性というのが強調されるかと思います。

(画面で紹介されたのは、松本竣介『人びと』、三岸好太郎『道化』)

松本竣介もルオーの作品を実際に目にした一人です。太い線で画面いっぱいに描かれた半身像(『少年像』1936年)はルオーの描き方によく似ています。

厚く塗った絵の具を削って生み出す複雑な肌の質感。技法だけでなく人物の内面的なものを描き出そうとするルオーの深い精神性に大きな影響を受けました。

こうしたルオーの絵画への向き合い方は現代の作家たちにも受け継がれています。

(画面にはマコト・フジムラ『二子玉川園』1989年)